eヒタカードシステムとは
「eヒタカードシステム」は、ITを利用した患者情報共有システムであり、登録患者急変時に患者情報がパソコンやiPadで簡単に閲覧することが可能となる医療連携ツールです。かかりつけ医・救急告示病院・救急隊がこのシステムに参加しており、これにより夜間や休日に患者さんが急変し、重篤な状態となった場合、速やかに救急隊が救急告示病院へ患者搬送を行うことができるようになります。
同システムは、平成24年より日田市および日田市医師会で取り組んでおります「在宅医療連携拠点事業」における一つの施策であり、主に在宅医療を受けている高齢者の皆さんが安心して日常生活を送っていただくことを目的として、「ブルーカード」の名称にてスタートしました。但し、現在では在宅患者だけでなく一般の外来患者につきましても登録対象とすることができ、また名称も「eヒタカード」に改めることとなりました。
eヒタカードシステム導入の経緯
日田市医師会 膳所和彦
わが国は世界屈指の高齢化社会です。2025年に高齢化率はピークを迎えることが予想され、それに備え地域包括ケアシステムの構築や地域医療ビジョンの導入が推奨されております。すなわち高齢者が医療・介護・福祉・生活援助などのサービスを、住み慣れた地域で包括的にかつ継続的に受けられるようなシステム作りが急務となっています。日田市医師会においても在宅医療を中心とした医療と介護の連携体制を確立するため、平成24年より「在宅医療連携拠点事業」に取り組んでいます。この事業の具体的基本指針は以下のとおりです。1.多職種連携の課題と解決策の抽出、2.在宅医療従事者の負担軽減、3.効率的な医療提供のための多職種連携、4.在宅医療に関する地域住民への普及啓発、5.在宅医療に従事する人材の育成。この2年間にこれらのタスクを実現するため、在宅医療連携会議の設立、多職種交流会の開催、入退院時の共通情報提供票の作成、資源マップの作成、講演会・講習会・勉強会の開催、地域リーダーの育成など多くの取り組みが行われ、成果を上げております。しかしながら、「在宅医療従事者の負担軽減」についての対策は今だ十分とは言えません。訪問診療医師の不足、緊急時におけるバックアップ体制の未整備など、課題が多いのが現状です。
この未解決の問題に対処するため、日田市医師会では平成27年4月よりITを活用した医療連携ネットワークシステムの構築を実現化いたしました。このような体制作りはすでに全国で展開されており、九州では長崎市の「あじさいネット」、別府市の「湯けむりネット」、臼杵市の「石仏ネット」が有名です。しかしながら、各々の地域特性は多種多様であり、日田市では日田市独自の体制作りが必要と考えております。平成25年日田市の高齢者のみ約300人を対象に在宅医療に関するアンケート調査を実施し、さらに平成28年には高齢者だけでなく40-64才の方々も含めた2,000人を対象とした大規模アンケート調査も実施いたしました。その結果、かかりつけ医による訪問診療の希望者は平成25年では53.5%で、平成28年では50.1%と差がありませんでした。一方病気が悪化し、さらに医療や介護の提供が必要となった場合、自宅で医療を受けたいと希望する人は平成23年48.0%でしたが、平成28年には16.2%と激減しておりました。逆に自宅以外の病院や施設などで医療を受けたいと希望する人は平成23年には52.0%でしたが、平成28年には75.0%となっておりました。約3年間に自宅ではなく、病院や施設などでケアを受けたいと希望される人が増えたことが判明いたしました。また看取りについてのアンケートでは、自宅で最期を迎えたいと希望する人は平成23年には50.9%と約半数でしたが、平成28年には38.7%と減少していました。
以上のような経過や結果を踏まえ、「在宅医療=在宅看取り」と言うことに拘らず、日田市においては在宅患者の急変時のバックアップ体制を主な目的とする連携システム作りに取り組むことといたしました。もちろん在宅での医療や看取りを希望する高齢者や家族に対しては、その意志を尊重し、その目的のための協力体制を確立することは異論のないところです。しかしながら、日田市の現状を鑑みますと、在宅療養支援診療所および病院が少なく、24時間体制で在宅医療を維持することは非常に困難です。したがってまず在宅患者が急変時にスムースに救急病院へ搬送される体制作りを確立することが、今後の在宅医療を発展される上で極めて重要であると結論するに至りました。
このためには在宅高齢者の医療や介護に関する情報を共有することが不可欠となります。前述したように我々は「入退院時情報提供票」を作成し、これを活用してきました。これにより高齢者が病院へ入院また病院から退院する場合に、患者の情報がスムースに伝達できるようになりました。この情報提供票をさらに簡略化し、患者の医療に関する情報を共通カードにまとめ、ITを利用してクラウド化することで、在宅患者急変時の対応がかなり迅速かつ潤滑となると予想されます。つまりあらかじめ在宅患者をカード登録し、それに対応する救急病院も同時に登録しておくことで、一元的に患者搬送が行われることになります。またかかりつけ医および救急病院の医師はこのクラウド化された患者情報を、パソコン、iPad、スマートフォンによりいつでも閲覧することができます。このシステムはすでに「ブルーカードシステム」として大阪市浪速区医師会に導入され、大きな成果を挙げています。同医師会では高齢者患者の救急搬送受け入れ拒否に対応するため、このシステムを始動しており、これにより高齢者救急患者の「タライ回し」が激減し、救急車による搬送時間も優位に短くなっています。日田市においては在宅医療を受けている高齢者の方々が安心して日常生活を送れるように、つまり深夜や休日などに病状が急に悪化しても、速やかに登録病院で対応してもらえるように、このブルーカードシステムを応用したバックアップ体制を確立してまいりました。
今回この「ブルーカード」の名称を、日田市独自のシステムであることを明確にするため「eヒタカード」に変更することとなりました。カードの内容を含め、システムの運用は以前のままです。平成29年8月現時点で「eヒタカード」延べ登録患者数は251名、実登録患者数168名(死亡や移動のため削除例あり)となっております。おかげさまで同システム導入から3年目となり、徐々に登録患者数も増えて来ました。今後の日田市における地域包括システム構築のため、また在宅医療体制充実のため、医療事業関係者・介護事業関係者だけでなく、日田市民の皆様もこの「eヒタカード」について十分御理解いただき、さらに活用していただくことを希望いたします。